大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和35年(く)139号 決定 1960年12月20日

少年 D(昭一八・三・二生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は抗告申立書記載のとおりであるからこれを引用する。

所論は原決定の処分の著しい不当を主張するものであるが、本件保護事件記録並びに少年調査記録を検討すると、原決定の認めた少年の非行は強姦一件窃盗及び窃盗未遂二十四件、恐喝一件の多きに上つているのであり、右窃盗は常習性を有するものと認められその非行性は顕著なものがあるのである。しかして少年は怠惰と両親の放任により学校には殆ど行かず、家庭において農業の手伝をしていたが十五才の頃より夜遊びをするようになり小遣不足を補うため米の持出をしたりしているうち、特に昭和三十五年春頃より交友不良から夜遊び過多となり、自動車運転に興味を覚え一時間四百円位の貸自動車を借りることが多く遂にその費用に窮し窃盗を反覆し、同年夏頃より女性関係ができてからは性的な興味も加わり遂に本件強姦の行為をなすに至つたものである。

しかして少年の家庭は父が妾を三人も持つている無軌道ぶりで、少年も妾の子供であるところから、成長すると共に父親に対する信用なく、父親自身も少年の非行に対し口先で困つたと云うのみで何等少年に対する指導を行つたことは認められず全くの放任家庭で、保護能力は期待できない。また少年の資質について見ても、その知能は低く魯鈍級であり、性格的に対人的劣等感が強く日常生活にいつも不満を持つており物事に凝ることはあるがその能力は劣つていることが認められる。

以上のような点を総合考察するときは、少年に対し在宅による更生はこれを期待し難く、事門的な指導者の下において相当期間適切な指導を行うことが相当と認められるので、少年を医療少年院に送致することとした原決定は所論のようにその処分が著しく不当なものとは認められない。

よつて本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし少年法第三十三条第一項に従い主文のとおり決定する。

(裁判長判事 坂井改造 判事 山本長次 判事 荒川省三)

別紙 (抗告の理由)

一、原決定が少年を送致(医療少年院に)する理由とする処は

一、少年は窃盗しているがそれは現に常習性になつている。

二、その上に強姦を敢行した。

三、知能が極めて低く自分の非行に対する責任感がない。

四、不道徳家庭で家庭に於ては適切な指導監督は望み得ない。

等の理由を挙げている。

二、前記理由に付て之を検討するに

一、窃盗が常習性になつていると云う点に付いては。

被告は本年四月頃羽生駅前の貸自動車屋で小型自動車を賃借して自動車の運搬及運転を練習して其運転が出来る様になつたので自動車に乗ることが遂面白くなり度々自動車を賃借し賃借回数が多くなつた為其賃借料が嵩み遂他人の物をとつて之れを金銭化し其支払に充てたものであつて四月に一回九月中に七回盗みをしたことはあつたがそれも他人の雛を窃つたもので大した犯罪でもなくまだ常習の域に達しない。

二、その上強姦を敢行したと云つているがこの少年は知能の程度低く自ら進んでこんな事をする少年ではない。

これは成人三人(K、M、H)少年三人(S、C、F)と一緒にした犯行だが少年は偶々Sと羽生小学校の校庭でオートバイに乗つて遊んでいたところ右の者等に無理に仲間に入れられて「お前もやつて来い」等と命ぜられて未遂に終つたものであり今後是等の友人と交遊を断つならば再びかかることを繰返さないであろう。

三、知能の程度が低いことは認めるがそれだけに素直で性質も悪くはなく両親の言うこともよくきき何か過でもあると心から詑びる様な少年であつて責任感も必ずしも薄くはない。

四、家庭もよくなかつたが父親Tは今度の事件があつてから長男Dを正しく指導し厳重に監督する為少年の実母以外とは全部手を切つて乱れた家庭を正しく整理したこれは父Tの大勇断であつて将来はDに対して充分な指導と監督を期待することが出来るのである。父Tの涙ぐましき決断として少年Dに対する決定も此点からも充分に考慮さる可きである。

三、少年の父Tは田畑約一町位を耕作する羽生市では中以上の農家でTは○○保健所の衛生士をして居る県職員である為其農業は母と少年の二人によつて営まれて来たのであつて学校卒業後はよく農業に従事して来たDは七才の時に電線に触れてからは頭の働きが悪く知能の程度は低いがそれに性質は悪くはなく学校卒業後はまじめに農業に従事していたものであるかかる少年は少年院に収容することは却つて悪に染むの結果となるのは明かである既に父Tに於て長年に亘つて乱れた家庭を正しく整理した現在に於ては少年に対しては家庭に於て保護と指導と監督をすべきが最も適当であつてこれを少年院に送致するとの処分は著るしく不当であるので本抗告をする。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例